もくじ
ワインインポーターの現場を変える。DXで実現した「離職させない」組織づくり
ワインインポーター「メローネ」の創業以来、当社が追求してきたことがあります。
それは、売上の拡大以上に「持続可能で強靭な組織をどう作るか」という問いです。
少人数のワインインポーターにおいて、スタッフは代替不可能な財産です。
現在、代表である私自身をはじめ、スタッフも子育て世代真っ只中にあります。
スタッフ全員が同じライフステージに身を置く当社にとって、誰かの家庭の事情が事業の停滞に繋がることは、組織全体の死活問題です。
だからこそ、変化を柔軟に包み込み、成長へと転換できる組織力。
この「レジリエンス(復元力)」の構築が、メローネの経営の核となりました。
この経営スタイルの真価が証明されたのが、2025年の暮れのことでした。
12月23日。ワイン業界が繁忙期の極致を迎える中、当社代表の悳山(とくやま)に次女が誕生しました。
本来、代表が現場を離れることは経営上の大きなリスクです。
しかし、私が病院で新しい命を迎えていた間も、メローネの業務は一切滞りませんでした。
それは、代表不在の現場を預かり自律的に動いてくれたスタッフがいたからです。
彼女たちが日々の業務でスキルを磨いてきたからこそ、私は安心して家族のそばにいられました。
また、物理的に離れていても、スマートフォン一つで受注から出荷までをリアルタイムに俯瞰できました。
チームの頑張りが常に可視化されていたことで、一縷の不安もありませんでした。
これは、デジタルと人間性が融合した「新しい経営」の形です。
SE歴17年の知見をワイン業界へ。働き方改革の原点となった「仕組み」の力
なぜ、零細企業であるメローネがこれほど徹底した仕組み化を実現できたのか。
そこには、私がシステムエンジニアとして過ごした17年間の、切実な実体験の積み重ねがあります。
最初のリモートワーク経験は、今から24年以上前、2001年9月に遡ります。
休暇先のタイから帰国した際、現地で飲んだ飲料が原因と思われる感染症(食中毒)に罹患しました。
当時は二次感染防止のため一週間の出勤停止を余儀なくされました。
しかし、この隔離期間中に自宅から業務を完遂した経験が、コロナ禍の10年以上も前に「仕組みさえあれば場所を問わず仕事は回せる」という私の確かな原体験となりました。
その後、データセンターのSEとして、24時間365日の現場で「誰が対応しても同じサービスレベルを維持する」ための作業運用指示書、チェックリスト、そして詳細な手順書の整備に奔走しました。
私が手順書やマニュアルの大切さを痛感したのは、産休に入る先輩社員からの引き継ぎの時でした。
さらに、所属部門のISO9001認証にあたり、それに準拠する膨大な文書整備を実務で経験し、得た知見をKAIZEN活動としてグループ全体へ横展開する日々を送りました。
そして何より、この「仕組み」の真価を身をもって知ったのは、私自身が2013年から約1年半、うつ病で休職を余儀なくされた時です。
私が現場を離れている間、組織を守り、業務を繋ぎ止めたのは、それまで私が心血を注いで作成・改版・改善し続けてきた文書類でした。
「自分が現場にいなくても、仕事が回る」。
その仕組みがあったからこそ、組織は維持され、私は守られました。
「仕組みは、人を縛るためのものではない。予期せぬ困難から、人と組織を守るための優しさである」。この信念が、現在のメローネのDX戦略の根底に流れています。
DXを支えるのは「人」。ウェルカム研修とマニュアルで育むプロの規律

メローネでは、新しいスタッフを迎える際、私自身がマンツーマンで「ウェルカム研修」を行います。
そこで共有するのが、私がこれまでの知見を注ぎ込んで作成し、現場に合わせて改訂を重ねてきたマニュアル『作業実施の前に』です。
このマニュアルには、単なるシステム操作手順だけでなく、「なぜこの仕事をやるのか」という会社の目的から、お互いを「さん付け」で呼び合う文化、さらには「挨拶は元気よく」といった、人間としての基本が明文化されています。

特に重要視しているのが、エンジニア的な「プロセス思考」です。
一人のミスが他の全員の時間を奪ってしまうからこそ、「1度の作業で正確に完結させる」ための指差点検を徹底する。
こうした「プロとしての規律」をあらかじめ言語化しておくことで、スタッフは「何をどこまでやれば正解なのか」という不安から解放されます。
「マニュアルがあるから、迷わなくて済む」「仕組みがあるから、胸を張って家族のために休める」。
この安心感こそが、子育て世代のスタッフがプロフェッショナルとして輝き続けるための土壌なのです。
ワインインポーターのDX具体例。「小1の壁」を突破するクラウドツール活用術
現代社会が直面する「ケア離職」や「小1の壁」。
これらは個人の努力や根性論で解決できる問題ではありません。
メローネでは、以下のクラウドシステムをシームレスに連携させ、仕組みで解決しています。

「メローネポータル」による知識の共有: Googleサイトで自社イントラを構築。手順書、生産者情報、Q&A、対応履歴、得意先ごとの情報を集約し、情報の属人化を排除しています。

Trelloによるオンライン・カンバン方式: 受注案件をカード化して可視化。作業状況が一目でわかるため、急な欠勤や離席があっても別のスタッフが即座にバトンを引き継げます。

高度な出荷・在庫管理(Logiec): クラウド上で提携倉庫とリアルタイム連携。事務所外から正確な在庫と出荷状況を把握でき、プロとしての信頼を担保します。
バックオフィス業務のフルクラウド化: マネーフォワードクラウドを核に、販売系システム「B-cart」「futureshop」、販売管理システム「販売ワークス」、クラウド型ドライブ「Dropbox」を連携。
少人数でも正確かつ迅速な事務処理を実現しています。
「朝は事務所、昼は子供の迎え、午後はリモート」。
スタッフ全員が子育て世代という環境下で、この柔軟なスタイルは、長年投資してきたシステムが「安心」として機能しているからこそ可能なのです。
和泉市から三越伊勢丹へ。DX経営が生んだ「高品質なワイン」を届けるグローカル経営
私たちの拠点は、大阪府和泉市。JR和泉府中駅から徒歩2分の場所にあります。
あえてこの地を選んだのは、職住近接による「生活の質の向上」のためです。
スタッフは鳳や和泉橋本など、阪和線沿線の近隣住民です。
無駄な通勤時間を削り、その分を家族や暮らしの時間に充てる。
地域に雇用を生み、豊かな生活を営む。これが私たちのローカルな基盤です。
しかし、扱うプロダクトは常に「イタリア最高品質」です。
私たちは現地で高く評価される生産者と、直接契約にこだわっています。
- San Cristoforo / Lazzari / Noventa:『ガンベロロッソ』で最高賞「トレ・ビッキエリ(3グラス)」を複数回獲得している造り手。
- Corte Fusia / Monte Alto / Togni Rebaioli / Corti Cusini:優れた品質と環境配慮が認められた「ヴィーノ・スロー」の称号を持つ次世代のリーダーたち。

この「目利きの力」と、エンジニア視点でのDXによる機動力が、最高峰の市場でも認められました。
伊勢丹新宿店や銀座三越といった、品質基準の厳しい百貨店での販売プロモーションを定期的に任されている理由は、この「確実な仕事」への信頼にあります。
スタッフこそが「一番のファン」であること。実体験が信頼を生む
メローネが大切にしている信念があります。
それは「スタッフ自身が、価値を一番理解していること」です。
そのため、スタッフが自社ワインを日常的に楽しめる優待制度を設けています。
これは単なる福利厚生ではありません。
イタリアの造り手が情熱を注いで醸したワインを、まずは一番近くの仲間に愛してほしい。
スタッフが家庭でワインを開け、家族と語り合う「実体験」を大切にしています。
その感動があるからこそ、お客様にも「気持ちが入ったご提案」ができるのです。
この「共感の連鎖」こそが、メローネの強みです。
2026年、進化し続ける「仕組み」で人を活かすワインインポーターへ
組織に変化はつきものです。人が入れ替わることもあれば、予期せぬライフイベントも訪れます。
しかし、「仕組み」によって人を活かし、支え合う組織があれば、変化は恐れるものではありません。
むしろ変化こそが、組織をより強く、優しくする成長の糧になります。
2026年、メローネは新たな体制でスタートを切ります。
事務的な無駄を削ぎ落とし、その分を「家族や暮らしの時間」や「ワインへの情熱」に投資します。
大阪府・和泉府中という地から、持続可能な働き方のモデルと、最高の一杯を。私たちはこれからも、進化を続けます。
著者:悳山 幸由(とくやま ゆきよし)
FRATELLI TOKUYAMA 合同会社 代表社員 / ワインインポーター(屋号:メローネ)
保有資格:VIA イタリアンワインマエストロ、WSET Level 3、JSAソムリエ
17年余りのデータセンターSEとしてのキャリアを経て、イタリアワインの世界へ。2001年の隔離環境でのリモートワーク経験や、自身の休職経験から「仕組みが人を救う」ことを確信。エンジニア時代の知見を活かした独自のDX経営を実践している。
「ガンベロロッソ」最高賞受賞銘柄など、現地で高く評価される生産者と直接提携し、その価値を三越伊勢丹など日本最高峰の市場へと繋いでいる。自社で構築したマニュアルをベースに、スタッフ全員が子育て世代という環境下で、プロフェッショナルとして輝き続けられる「ケア離職のない働き方」を自ら体現。地方零細企業の新しいモデルケース構築に注力している。
・公式サイト:https://www.melone.co.jp/
